加地が大好きで、歪んだ加地観(価値観?)微妙!な方はくるっと回れ右。
大分前にすみさんとお喋りしてて10分くらいで書いたやつです。 すんごい短い。そして加地の解釈がちょっと酷い。酷いって言うか加地が電波気味だ。 ええと、それでもわたしは加地が普通にすきです。 加地が何故香穂子が好きなのか、というところをねちねちと考えた結果できたお話。 偶像的(アイドル的)、かつポラリスのように香穂子を見ている加地と、そんな加地の空虚さに「こいつもかー」とぐったりしている香穂子。勿論こいつもかーの「も」は柚木様です。 要するに柚木×香穂子前提の地日なのでした。 …わたしは加地が普通に好きなんです信じてください(強調)。
□□□からっぽの加地
「あなたってなにもないのね」 薄出来の陶器かなにかのような唇がその言葉を吐き出すのを、加地は注意深く見つめていた。何せようやく出会えた少女なのだ。一挙手一投足を、台詞の一つ一つをすべて記憶に、脳にあるという細胞の襞までに刷り込まないと落ち着かない。 そうして、彼女の体躯を縁取るかのようにひたすら眺め、掛けた文句に無反応な(のように思えたのだろう、)加地に香穂子は溜息を零した。 加地は気が付かなかった。きっと、おそらく、少女の言には続きがあるのだろうと、待つだけだった。彼の沈黙こそが香穂子に続きを促させたことすら、気が付かずに。 「わたしも大概何ももたないし、ただ失っていくだけの人間で―――、それに絶望することすら止めて、今は、」彼女はそこで、思案するように言葉を切らせた。 「今はあるひとの空虚に付き合ってる。それで彼が救われるのなら、構わないと思っているけれど」 「…そのひとが羨ましいよ。君に相手をして貰えるなんて」 「心にもないことを言わないで頂戴」 妙に断定的な言い様で香穂子はぴしゃりと言い放った。加地は内心で首を傾げる。彼女の不興を買うようなことは、していないと思うのだが。 事実、香穂子の表情から憤りは伺えなかった。ただ、酷く沈鬱な、痛みを堪えるような色を浮かべていた。 「加地君」 その時の、彼女が自分を呼んだ声をきっといつまでも忘れないだろうと思う。加地は、自らの名を、存在を、確かに固定されたように感じた。香穂子は間違いなく己を呼ばわっていた。他の誰でもなく、加地葵を。 「あなたが致命的なことは、ほんとうに、ほんとうの意味で自分になにもないことが、分かっていないことなの。たぶん、あなたと言葉を交わして、抱き合ったとしても、何も伝わらないと思う。それはあなたがわたしに伝えたいことが、ほんとうには何もないから」 「僕は君が好きで」 「嘘よ」 否定が、もっと感情的であったのなら加地はきっと笑えただろう。現に香穂子が喋りだしても加地は微笑んだままで聞いていた。お互いのことを、(加地は彼女のことをよく知っているつもりだけれど)まだ分かり合えてすら居ない筈なのに、香穂子は理解している風に言う。僕がからっぽだって?君が好きで好きで、ここまでやってきたのに、その気持ちが嘘だと言うの? 「そうよ。あなたが好きなのはわたしじゃない。あなたがそうであって欲しい誰かを、わたしにしているだけ。あなたが熱情を捧げたい影を、わたしに宛がっているだけ」 香穂子は眉をひっそりと顰めた。
その様で、加地はさきほどの、―――――自らが誰よりも確固とした存在になったかのような感覚の―――理由を悟った。 彼女はほんとうに、加地を理解してくれている。 「わたしを好きなふりで、なにかを好きでいたいだけ。ほんとうに近付きたいものは何?あなたの奏でたい音楽?音楽そのもの?それとも、音楽ですらなくて、漠然とした憧れなのかしら。とにかくそんなものにわたしをすりかえないで、面倒なの、ひとの想いに連れ添うのは、彼で充分」 「日野さん、君が誰のことを好きでも、僕は構わないんだ。君を好きで居続けることに許可が必要なら、別だけど」 「わたしがいいたいのはそういうことじゃない」 「でも多分、僕が聴きたいのはそういう話なんだ。君のことが好きだという事実だけは、すり替えようがない」 「あなたはわたしのことなんて、好きじゃないのよほんとうは」 「僕が恋したところが何処なのか、具体的に挙げた方がいい?女の子はそういうのを聴きたがるし、聴くと安心するみたいだけれど、君はどうなんだろう」 段々と言い合いのようになってきて、困った。香穂子を弱らせたい訳ではないのに、加地が言葉を連ねるたび、彼女は段々と消耗していく。仕舞いには顔を伏せられてしまった。慌ててほっそりした手首を掴み取り、面伏せた覆いを取り去って、焦がれていた柔らかな色味の双眸を明らかにしたいと思った。「そんな、中身のないこと聞きたくない」 中身がないのは言葉だけじゃない、それを彼女はよくよく分かっている。流石にずっとにやにやしている訳にはいかないな、と笑顔を引っ込めると、香穂子は緩く首を振った。 「わたしが言っている意味が分かっていないわけじゃないのよね。……また、気が付かない振りをしてるのね、加地君は」 あなた、からっぽだわ。香穂子は呟いた。 加地は思う。このひとこそが、自分の、唾棄すべきところも、かろうじて残っているかもしれない輝石めいた欠片をも、拾い上げてくれる筈だ。 どういう風に返したら、彼女は許してくれるだろう。呆れてはいるかもしれないが、怒ってはいない。それから、加地のことを空恐ろしいほどに見抜いていて、目の前から即刻立ち去れと当たり散らすまでは厭うていない。 ――――となれば、まだ何とか大丈夫だろう。
PR 2009/04/07(Tue) 01:09:53
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