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2025/06/18(Wed) 07:52:17
加地が大好きで、歪んだ加地観(価値観?)微妙!な方はくるっと回れ右。
大分前にすみさんとお喋りしてて10分くらいで書いたやつです。
すんごい短い。そして加地の解釈がちょっと酷い。酷いって言うか加地が電波気味だ。

ええと、それでもわたしは加地が普通にすきです。
加地が何故香穂子が好きなのか、というところをねちねちと考えた結果できたお話。
偶像的(アイドル的)、かつポラリスのように香穂子を見ている加地と、そんな加地の空虚さに「こいつもかー」とぐったりしている香穂子。勿論こいつもかーの「も」は柚木様です。
要するに柚木×香穂子前提の地日なのでした。

…わたしは加地が普通に好きなんです信じてください(強調)。

□□□からっぽの加地


「あなたってなにもないのね」

 薄出来の陶器かなにかのような唇がその言葉を吐き出すのを、加地は注意深く見つめていた。何せようやく出会えた少女なのだ。一挙手一投足を、台詞の一つ一つをすべて記憶に、脳にあるという細胞の襞までに刷り込まないと落ち着かない。

そうして、彼女の体躯を縁取るかのようにひたすら眺め、掛けた文句に無反応な(のように思えたのだろう、)加地に香穂子は溜息を零した。

加地は気が付かなかった。きっと、おそらく、少女の言には続きがあるのだろうと、待つだけだった。彼の沈黙こそが香穂子に続きを促させたことすら、気が付かずに。

「わたしも大概何ももたないし、ただ失っていくだけの人間で―――、それに絶望することすら止めて、今は、」彼女はそこで、思案するように言葉を切らせた。

「今はあるひとの空虚に付き合ってる。それで彼が救われるのなら、構わないと思っているけれど」

「…そのひとが羨ましいよ。君に相手をして貰えるなんて」

「心にもないことを言わないで頂戴」

 妙に断定的な言い様で香穂子はぴしゃりと言い放った。加地は内心で首を傾げる。彼女の不興を買うようなことは、していないと思うのだが。

事実、香穂子の表情から憤りは伺えなかった。ただ、酷く沈鬱な、痛みを堪えるような色を浮かべていた。

「加地君」

 その時の、彼女が自分を呼んだ声をきっといつまでも忘れないだろうと思う。加地は、自らの名を、存在を、確かに固定されたように感じた。香穂子は間違いなく己を呼ばわっていた。他の誰でもなく、加地葵を。

「あなたが致命的なことは、ほんとうに、ほんとうの意味で自分になにもないことが、分かっていないことなの。たぶん、あなたと言葉を交わして、抱き合ったとしても、何も伝わらないと思う。それはあなたがわたしに伝えたいことが、ほんとうには何もないから」

「僕は君が好きで」

「嘘よ」

 否定が、もっと感情的であったのなら加地はきっと笑えただろう。現に香穂子が喋りだしても加地は微笑んだままで聞いていた。お互いのことを、(加地は彼女のことをよく知っているつもりだけれど)まだ分かり合えてすら居ない筈なのに、香穂子は理解している風に言う。僕がからっぽだって?君が好きで好きで、ここまでやってきたのに、その気持ちが嘘だと言うの?

「そうよ。あなたが好きなのはわたしじゃない。あなたがそうであって欲しい誰かを、わたしにしているだけ。あなたが熱情を捧げたい影を、わたしに宛がっているだけ」

 香穂子は眉をひっそりと顰めた。

 

その様で、加地はさきほどの、―――――自らが誰よりも確固とした存在になったかのような感覚の―――理由を悟った。

彼女はほんとうに、加地を理解してくれている。

「わたしを好きなふりで、なにかを好きでいたいだけ。ほんとうに近付きたいものは何?あなたの奏でたい音楽?音楽そのもの?それとも、音楽ですらなくて、漠然とした憧れなのかしら。とにかくそんなものにわたしをすりかえないで、面倒なの、ひとの想いに連れ添うのは、彼で充分」

「日野さん、君が誰のことを好きでも、僕は構わないんだ。君を好きで居続けることに許可が必要なら、別だけど」

「わたしがいいたいのはそういうことじゃない」

「でも多分、僕が聴きたいのはそういう話なんだ。君のことが好きだという事実だけは、すり替えようがない」

「あなたはわたしのことなんて、好きじゃないのよほんとうは」

「僕が恋したところが何処なのか、具体的に挙げた方がいい?女の子はそういうのを聴きたがるし、聴くと安心するみたいだけれど、君はどうなんだろう」

 段々と言い合いのようになってきて、困った。香穂子を弱らせたい訳ではないのに、加地が言葉を連ねるたび、彼女は段々と消耗していく。仕舞いには顔を伏せられてしまった。慌ててほっそりした手首を掴み取り、面伏せた覆いを取り去って、焦がれていた柔らかな色味の双眸を明らかにしたいと思った。「そんな、中身のないこと聞きたくない」

 中身がないのは言葉だけじゃない、それを彼女はよくよく分かっている。流石にずっとにやにやしている訳にはいかないな、と笑顔を引っ込めると、香穂子は緩く首を振った。

「わたしが言っている意味が分かっていないわけじゃないのよね。……また、気が付かない振りをしてるのね、加地君は」

あなた、からっぽだわ。香穂子は呟いた。

加地は思う。このひとこそが、自分の、唾棄すべきところも、かろうじて残っているかもしれない輝石めいた欠片をも、拾い上げてくれる筈だ。

どういう風に返したら、彼女は許してくれるだろう。呆れてはいるかもしれないが、怒ってはいない。それから、加地のことを空恐ろしいほどに見抜いていて、目の前から即刻立ち去れと当たり散らすまでは厭うていない。

――――となれば、まだ何とか大丈夫だろう。



Normal 0 0 2

取りあえず警戒心を解こうと人当たりの良さそうな笑みを作ったら、何故だか香穂子が泣きそうな顔をした。

 


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2009/04/07(Tue) 01:09:53
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