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どこにもいけない。 目下リンクゾーンにある『こつこつ』で絵の練習してます。
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2025/07/07(Mon) 01:41:55
 暗黒週間が続いています。あっでもちょっとマシになったよ!
日曜出勤は先週でストップしました…。そして日曜は18時間寝ました…。
実家では「目が腐るんじゃね」と言われたぷち冬眠です。寝過ぎて吐いた(やりすぎです)。
今日は課長ちゃんに「学校じゃできないからこれ家帰ってやれや」って言われました。
えっ日本語おかしくないですか!?

学校じゃできないから家帰ってやれ

…………死ねと…?

むかついたのでGW手前の出退勤ボードに『休』を書きまくってきました。
(うちの部署は早い者勝ち&断りなしで勝手に記入というトンデモ部署です。ありえない)
多分不受理だと消されます。29日出勤なんだから赦してよ課長~。

帰りに思いついて30分くらいでぞろっと出てきましたかじひの。
どうやら柚木について考えている脳と加地について考えている脳は場所が違うみたいです。
思いつき方とか話の方向性が若干違う気がする…。


■■■へルタースケルター 


  その日、僕は自室に彼女を呼んで、二人で往年のカーレース・ゲームなんぞをやっていた。僕らが小学生の時分には主流だったスーパーファミコンのタイトルは今やネットワークでインストール、基板が無くてもデータで遊べるようなお手軽な代物になっている。ここ最近のコンピュータの進化は目覚ましい、と大人たちは溜息混じりで言うが、コンピュータ世代だと称される僕らだって時に呆然とする程の早さで物事は進化している。

尤も創造主たる人間の方はそうでもなくて、個人が死に向かって緩やかに老いていくように、人類全体は段々と衰退しているんじゃないだろうか。運動神経や科学技術、寿命は飛躍的に延びているのかもしれないけれど、それは時間と共に伸ばすに容易い、爪みたいなもので、身体そのものは確実に駄目になっているのでは――――。

そこまで考えたところで僕の操っていた緑色の恐竜もどきは障害物に正面衝突し、子どものお絵かきレベルにデフォルメされた星を散らしながら果てた。その脇を素晴らしく遅いスピードで(微妙に矛盾した表現だが誤りではない)、ドレスを翻す姫君を乗せて、下品なピンクの車が走っていく。

「かじくん、下手」

「…考え事してた」

「リアル運転には向いてないかもね。隣、乗るの怖い」

「そんなこと言わないでよ、君を乗せるの夢なんだから」

香穂さんはちらりとこちらを見た。眇めた目つきはほんの一瞬で、すぐに大画面のモニターへと戻る。彼女にはグッド・ドライバーの素質がありそうだった。余所見はほどほど、決断はいつだって確かだ。早過ぎも遅過ぎもしない。

「一回でもちゃんと走りきったら、考える」

「他の連中と遊ぶときはこんなこと、ないんだ。君だから」

「舐めて失敗するって?」

 とろとろと車を進めながら彼女は唇を小さく尖らせた。確かこのゲームは時間制限があって、あまりに安全運転をするとタイムアップになるんじゃなかったっけか。時間切れになるまで走ることなんて無いから、うっかり忘れがちだ。とは言え、香穂さんを焦らせるのは本意ではないので、コントローラを床に置いて、ビーズクッションに身体を預けた。この前買ったばかりだけれど、さんざん押したり乗ったりして気に入って買っただけのことはある。黒が似合う、と彼女に言われて調子に乗って、クッションまでブラックカラーにしたら、香穂さんは少し呆れていたみたいだけれど。

「香穂さんの運転だと、大渋滞になりそうだね」

「事故るよりかはいいでしょ」

「…渋滞は事故の元だと思うよ…」

「それは負け惜しみなのか、忠告なのか、どっちなのかしら」

「どっちでもないよ。構って欲しいだけ」

「…………」

 香穂さんは物凄く黙った。それこそ貝のように、ぴったりと沈黙した。赤みの勝った髪の奥、小さな頭の中ではきっとフル回転で僕の言った台詞が検討されているのだ。本気なのか、冗談なのか、ゲームを中断して相手をすべきか、黙殺すべきなのか。

彼女は元来相当真面目な性格なので(本人は認めたがらない。美徳のひとつとして数えても差し支えないと思うのだが)、一度やり始めたことは余程でなければ辞めたりしない。ヴァイオリンにしろ、アンサンブルにしろ、コンミスにしろ。その中に僕の相手も入ればいい。

「このコース」

「え?」

「あとどれくらいあるの?」

 取りあえず障害物を避けて突っ走るだけのコースをセレクトした(彼女のためだ)ので、後一周もすれば終わることを告げれば、香穂さんはこっくりと頷いた。

「すぐ終わるってことね」

「うん」

「なら待ってて」

「……うん」

 それからは物凄い集中力がモニターに捧げられた。彼女の沈黙は最早貝レベルからアンモナイト級になった。ノアが箱船を建造し、モーゼが海を割り、ミカエルが星を落とせし時かくやと言わんばかりのコンセントレイションだった。当然僕は嫉妬し、彼女が僕の為に早々と終わらせようとしていることを陵駕して苛立った。物凄い自己中心的発憤である。

「ねえ、」

「………」

「さっきまで僕が考えてたことはね、人間は総体的には退化してるんじゃないかってこと」

「……ふうん」

「だってもうモーツァルトやベートーベンや、ヘンデルみたいな音楽を僕らはどうやら作れない。クラシックは一つのジャンルだけれど、彼らの模倣をすることはできても、真似で終わってしまっている。僕らは素敵な見本があっても同じ服を作ることが出来ていない」

「……そう」

 僕が今日彼女を呼んだのは、遊ぶ約束にかこつけて、ある重大な告白をする為だった。別に音楽論をぶち挙げたい訳じゃない。もっとどうしようもない話をする筈だったのだ。総体的に退化している人間が、昔から変わることなく続けている営みのひとつ、その手前の手前の、もういっこ手前くらいの法的拘束力すら無い誓い。どうやって切り出すべきか迷って現実逃避の末、脱線しきって帰れなくなってしまっている。人の進化がうまくいっていようがいまいが、僕らは生きていくしかないし、僕が彼女のことを好きだって事実に曇りはないのに。

「ビートルズが音楽を駄目にした、って言う人もいる。確かに彼らの出現で、音楽のジャンルの扉は一方が開き、一方が閉じてしまったのかも」

「…そうね」

「ねえ、香穂さんはビートルズ好き?」

「…ええ」

「ヘルタースケルターって聴いたことある?」

「…ええ」

「僕はあれを聴いてると部品をばらばら零しながら走る車を想像するんだ。ゴールに着く頃には骨組みしか残ってない」

「……ふうん」

「音だって汚いし、割とどうしようもない感じの曲なんだけど、ビートルズって言うと不思議と思い出すんだ」

「……そう」

「どうしようもない繋がりであれなんだけど、」

「…ええ」

「僕は君が好きなんだ」

「…そう」

「毎日耳がタコになるくらい言っちゃってるけど、そういう意味じゃなくて、いやそういう意味なんだけど、ほんとうにすきで」

「…ええ」

「そういう意味でつきあってほしいって思ってる」

「……ふうん」

「けど、返事はいいから」

「いいの?」

 これまた特撮の効果音かと聞き違うくらいの馬鹿馬鹿しい効果音、プラス画面が激しく明滅した気配がして、僕は慌てて飛び起きた。姫の乗った車は綿飴みたいな雲に包まれて消えるところだった。彼女はそれでも真っ直ぐ画面を見つめている。人工の光がちかちか照らす白い横顔は唇をしっかりと引き結んでいて、滑稽なシーンに相反してひどく奇麗だった。

「返事、いらないの」

「話聞いてたの!?」

「相手しろって言ったじゃない」

「言った、けどさ…」

 僕はまたしても自分勝手に頭を抱えた。聞いていないと思ったのだ。だから言った。普段流行の歌のように口にしていた台詞は、隅々まで本気だけれど、答えを求めようとした途端、不安になった。言葉は難しい。理解して貰うためには重ねなければならないけれど、繰り返し過ぎると軽くなる。例えば僕や、僕自身の想いのように。

彼女はコントローラをぽい、と投げ捨て、長座を胡座に変えてこちらに向き直った。七分のジーンズの裾から覗く脚はすべらかで、漠然と、触れてみたい、と思った。

硬化した表情からは怒っているのか呆れているのか、読み取ることはできなかった。万が一照れていてくれたら最高なんだけれど、テレビの光の所為で不明だった。

香穂さんは僕をぎゅっと睨み付けた。飛び起きたなり変に崩れた体勢で居た僕は、視線に打ち据えられたみたいに姿勢を正し、正座をした。

「相手しろって言ったから出来るだけ話は聞いた、相槌も打った。へルタースケルターは滑り台って意味で、わたしも聴いたこと、ある。難しいことはわかんないけど、ビートルズって言ったら一番最初に出てくるのはオブラディ・オブラダ。あと最後の質問の答えは」そこでぐっと息を吸い、深く吐いてから彼女は言った。「…はい」

 ――――まるでお説教みたいな『イエス』だった。

 

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2009/04/28(Tue) 00:49:53
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